といめぐり

占いの寄り道 | 01 | カードの来歴

タロットカードは、どこから来たのか

タロットカードは、どこから来たのか。太陽・カップ・騎士を描いた創作カードの図版

再生すると YouTube(Google)に接続します。詳しくはプライバシーポリシーをご覧ください。

タロットを一枚めくる。王冠をかぶった人。空に浮かぶ太陽。馬に乗った騎士。

絵を見てると、物語がありそうだろ。

占いの店で見たか。動画で一枚選んだか。そうやってタロットを知ったなら、昔の使い方は意外かもしれない。

今から六百年ほど前。イタリアの人たちは、タロットでカードゲームをしていた。

手札を見る。相手の札を待つ。机の上に、太陽や皇帝が出てくる。今なら意味を調べたくなる絵だ。当時のプレイヤーには、勝負の札だった。

ここは「占いの寄り道」。占いをきっかけに、昔の道具や絵、星や暦の話をたどる。第一回の案内は、タロット担当の俺、一之瀬新だ。このカードがどこから来たのか、見に行こう。

金色のカードで遊んだ人たち

初期の記録をたどると、十五世紀の北イタリアに行き着く。メトロポリタン美術館の解説では、記録は一四四〇〜五〇年代に集まっている。「この年、この人が発明した」とは言えない。始まりは一点に決まらないんだ。

その時代のカードで知られるのが、ミラノの名家にちなんだヴィスコンティ=スフォルツァのタロット。モルガン・ライブラリー&ミュージアムが所蔵記録を公開している。厚い紙に描いた十五世紀のカードだ。両家の紋章や意匠も入っている。

今のカードは、箱を開ければ一組そろう。昔の絵札は違う。残った一枚ずつが、貴重な資料だ。

たとえばモルガン所蔵の「剣の女王」。金色の地に、王冠の人物が剣を持って座る。一枚が、細長い絵画みたいだ。

いいか、画像を拡大してみろ。顔つきも、服の柄も見えてくる。こんな札を持ったら、勝負を忘れて見せ合いたくなる。

ただし、当時のカードが全部こんな豪華さだったとは限らない。ここで見ているのは、裕福な家のために作った、現存する特別な札だ。

太陽や皇帝は、切り札だった

タロットのゲームは「トリックテイキング」。順番に札を出して、その回に勝った人が場の札を取る遊びだ。そこに切り札がある。細かいルールは置いておく。机を囲んで、誰の札が勝つか見守る場面を思い浮かべてみろ。

タロットの束には、カップや剣のマークの札と、人物や寓意を描いた特別な札が入っている。特別な札が切り札だ。現代の標準で数えると、切り札が二十一枚。別の役割の「愚者」が一枚だ。

皇帝を出すか。もう少し手元に残すか。プレイヤーになったつもりで見ると、出しどころが気になってくる。

太陽を引いた人は、未来を読み、出しどころを考える。どんな思いだったか、想像してみろ。

ところで、束には切り札のほかに、カップや剣のマークの札も入っている。切り札だけの束じゃない。この組み立ては、どこから来たのか。

タロットは、ふつうのカードに切り札を足した束

トランプを思い出してくれ。四つのマーク。数の札。キングとクイーン。タロットの束にも、よく似た組み立ての札がある。今で言う「小アルカナ」だ。

なんで似ているのか。どっちも、カードゲーム用の札の仲間だからだ。

タロットが出てくる前から、ヨーロッパにはゲーム用のふつうのカードがあった。ここでは「ふつうのカード」と呼ぶ。美術館の解説では「遊戯用カード」だ。タロットとは別の、四つのマークで遊ぶ束で、十四世紀にはヨーロッパへ伝わっていた。

十五世紀のイタリアのふつうのカードは、カップ・剣・棒(ワンド)・コインの四つのマーク。この束に、人物や寓意を描いた二十一枚の切り札と、愚者を足した。新しい遊びの完成だ。それがタロット。足された切り札の部分を、今は「大アルカナ」と呼ぶ。

結論から言う。タロットの束は、ふつうのカードの束に切り札を足したものだ。小アルカナは、そのもとの部分にあたる。

じゃあ、トランプは。今のマークは、ハート・ダイヤ・クラブ・スペード。タロットのカップ・剣・棒・コインとは、別の組み合わせだ。ふつうのカードは、土地ごとに違うマークを使うようになった。だから、「小アルカナからトランプが生まれた」わけじゃない。ふつうのカードが土地ごとに姿を変えた先に、トランプの組み立ても、小アルカナの組み立ても残っている。そう考えれば、似ている理由が見えてくる。

今の標準形を並べると、似ている点と違う点が見つけやすい。

比べるところ標準的なトランプ現代の標準的な小アルカナ
マークの組ハート・ダイヤ・クラブ・スペードカップ・コイン/ペンタクル・棒/ワンド・剣/ソード
一組の枚数13枚14枚
人物の札ジャック・クイーン・キングペイジ・ナイト・クイーン・キング
四組の合計52枚(ジョーカーを除く)56枚

小アルカナは、馬に乗るナイトも一人前の人物札だ。トランプの人物を思い浮かべて見ると、宮廷にもう一人加わったみたいだろ。

この表は、いま見かける形の比較だ。昔から、どの地域でも同じ枚数だったわけじゃない。カップがそのままハートになった、という一対一の系図でもない。

カード遊びの道具は、土地と時代で姿を変えてきた。今の二つの箱だけ見比べていたら、途中に残る面白い札を見逃す。

ハートの代わりに、犬の首輪

ふつうのカードの中には、今の形とかなり違うものもある。メトロポリタン美術館が持つ、十五世紀後半のカードを見てくれ。四組のマークは、狩りの角笛、犬の首輪、猟犬をつなぐひも、獲物を捕らえるわな。狩りの道具が、そのままマークだ。

「首輪の四」と呼べる札まである。「ハートの四」を見分けるのと同じ。首輪の数で、札を見分ける仕組みだ。

十五世紀後半のカード「首輪の四」
「首輪の四」(約1475〜80年)。The Cloisters Collection, 1983, The Metropolitan Museum of Art. Public Domain.

画像では、首輪が札の中に四つ並んでいる。マークを繰り返して数を表す仕組みは、トランプと似ている。なのに、首輪を数えるとなると、急に別のゲームに見えてくる。

四組のマークと数札、人物札。この共通の作りを知っておけ。古いカードの画像を見たとき、「これは何のマークだ」と探す楽しみが増える。

占いの道具になるまでには、時間があった

タロットが遊びの道具として現れたのは十五世紀。占いの説明が広がるのは十八世紀末。間には数百年ある。V&Aの解説が、この後世の占い利用と神秘思想の広がりを紹介している。

その間に、「実は古代エジプトの知恵を伝えるカードだ」という説明も出てきた。一七八一年、クール・ド・ジェブランがエジプト起源の説を唱えている。モルガンの解説は、この説を史実の裏づけとしては扱っていない。

古代の秘密を託した絵札。聞けば、一枚ずつから謎を読み取りたくなる。気持ちは分かる。でも、まあ聞け。当時の人がそう語ったことと、本当に古代から伝わったことは、分けておくんだ。

一方で、後の人たちがカードに何の意味を見つけたかも、来歴の一部だ。フランス国立図書館には、エッテイヤによる一七八三年刊のカード占い関連書の書誌が残っている。札を読む方法を本にまとめて、伝えようとした人がいた。その仕事を、書物の形で確かめられる。

使う人が変わる。読み方を伝える人が現れる。絵について語る言葉が増える。最初に遊んだ人たちも、何百年後に自分の手札をめぐってこんな本が書かれるとは、思わなかっただろ。

箱の中には、描いた人の仕事がある

今いちばん知られている絵柄の一つが、一九〇九年刊のライダー・ウェイト・スミス版。アーサー・エドワード・ウェイトが構想して、パメラ・コールマン・スミスが絵を描いた。モルガンの展覧会解説が、この版が後の芸術家に与えた影響を紹介している。

名前を知ると、絵札の見方に、描き手への関心が加わる。どんな線で服を描いたのか。背景に何を置いたのか。人物同士をどれくらい離して立たせたのか。一枚ずつ選んだ人の仕事を、俺たちは今も箱から出して眺めている。

次にタロットを見るとき、絵の細部も見てみろ。遊びの手札にした人。その札に別の意味を読んだ人。描き直して新しい一組を作った人。来歴をたどると、使う人と描く人の姿が見えてくる。

次回は、カードの机から夜空へ。「人はなぜ、星を見上げてきたのか」をたどる。案内は冴香だ。

これまでの読み物