タロットを一枚めくる。王冠をかぶった人。空に浮かぶ太陽。馬に乗った騎士。
絵を見てると、物語がありそうだろ。
占いの店で見たか。動画で一枚選んだか。そうやってタロットを知ったなら、昔の使い方は意外かもしれない。
今から六百年ほど前。イタリアの人たちは、タロットでカードゲームをしていた。
手札を見る。相手の札を待つ。机の上に、太陽や皇帝が出てくる。今なら意味を調べたくなる絵だ。当時のプレイヤーには、勝負の札だった。
ここは「占いの寄り道」。占いをきっかけに、昔の道具や絵、星や暦の話をたどる。第一回の案内は、タロット担当の俺、一之瀬新だ。このカードがどこから来たのか、見に行こう。
金色のカードで遊んだ人たち
初期の記録をたどると、十五世紀の北イタリアに行き着く。メトロポリタン美術館の解説では、記録は一四四〇〜五〇年代に集まっている。「この年、この人が発明した」とは言えない。始まりは一点に決まらないんだ。
その時代のカードで知られるのが、ミラノの名家にちなんだヴィスコンティ=スフォルツァのタロット。モルガン・ライブラリー&ミュージアムが所蔵記録を公開している。厚い紙に描いた十五世紀のカードだ。両家の紋章や意匠も入っている。
今のカードは、箱を開ければ一組そろう。昔の絵札は違う。残った一枚ずつが、貴重な資料だ。
たとえばモルガン所蔵の「剣の女王」。金色の地に、王冠の人物が剣を持って座る。一枚が、細長い絵画みたいだ。
いいか、画像を拡大してみろ。顔つきも、服の柄も見えてくる。こんな札を持ったら、勝負を忘れて見せ合いたくなる。
ただし、当時のカードが全部こんな豪華さだったとは限らない。ここで見ているのは、裕福な家のために作った、現存する特別な札だ。
太陽や皇帝は、切り札だった
タロットのゲームは「トリックテイキング」。順番に札を出して、その回に勝った人が場の札を取る遊びだ。そこに切り札がある。細かいルールは置いておく。机を囲んで、誰の札が勝つか見守る場面を思い浮かべてみろ。
タロットの束には、カップや剣のマークの札と、人物や寓意を描いた特別な札が入っている。特別な札が切り札だ。現代の標準で数えると、切り札が二十一枚。別の役割の「愚者」が一枚だ。
皇帝を出すか。もう少し手元に残すか。プレイヤーになったつもりで見ると、出しどころが気になってくる。
太陽を引いた人は、未来を読み、出しどころを考える。どんな思いだったか、想像してみろ。
ところで、束には切り札のほかに、カップや剣のマークの札も入っている。切り札だけの束じゃない。この組み立ては、どこから来たのか。
タロットは、ふつうのカードに切り札を足した束
トランプを思い出してくれ。四つのマーク。数の札。キングとクイーン。タロットの束にも、よく似た組み立ての札がある。今で言う「小アルカナ」だ。
なんで似ているのか。どっちも、カードゲーム用の札の仲間だからだ。
タロットが出てくる前から、ヨーロッパにはゲーム用のふつうのカードがあった。ここでは「ふつうのカード」と呼ぶ。美術館の解説では「遊戯用カード」だ。タロットとは別の、四つのマークで遊ぶ束で、十四世紀にはヨーロッパへ伝わっていた。
十五世紀のイタリアのふつうのカードは、カップ・剣・棒(ワンド)・コインの四つのマーク。この束に、人物や寓意を描いた二十一枚の切り札と、愚者を足した。新しい遊びの完成だ。それがタロット。足された切り札の部分を、今は「大アルカナ」と呼ぶ。
結論から言う。タロットの束は、ふつうのカードの束に切り札を足したものだ。小アルカナは、そのもとの部分にあたる。
じゃあ、トランプは。今のマークは、ハート・ダイヤ・クラブ・スペード。タロットのカップ・剣・棒・コインとは、別の組み合わせだ。ふつうのカードは、土地ごとに違うマークを使うようになった。だから、「小アルカナからトランプが生まれた」わけじゃない。ふつうのカードが土地ごとに姿を変えた先に、トランプの組み立ても、小アルカナの組み立ても残っている。そう考えれば、似ている理由が見えてくる。
今の標準形を並べると、似ている点と違う点が見つけやすい。
| 比べるところ | 標準的なトランプ | 現代の標準的な小アルカナ |
|---|---|---|
| マークの組 | ハート・ダイヤ・クラブ・スペード | カップ・コイン/ペンタクル・棒/ワンド・剣/ソード |
| 一組の枚数 | 13枚 | 14枚 |
| 人物の札 | ジャック・クイーン・キング | ペイジ・ナイト・クイーン・キング |
| 四組の合計 | 52枚(ジョーカーを除く) | 56枚 |
小アルカナは、馬に乗るナイトも一人前の人物札だ。トランプの人物を思い浮かべて見ると、宮廷にもう一人加わったみたいだろ。
この表は、いま見かける形の比較だ。昔から、どの地域でも同じ枚数だったわけじゃない。カップがそのままハートになった、という一対一の系図でもない。
カード遊びの道具は、土地と時代で姿を変えてきた。今の二つの箱だけ見比べていたら、途中に残る面白い札を見逃す。
ハートの代わりに、犬の首輪
ふつうのカードの中には、今の形とかなり違うものもある。メトロポリタン美術館が持つ、十五世紀後半のカードを見てくれ。四組のマークは、狩りの角笛、犬の首輪、猟犬をつなぐひも、獲物を捕らえるわな。狩りの道具が、そのままマークだ。
「首輪の四」と呼べる札まである。「ハートの四」を見分けるのと同じ。首輪の数で、札を見分ける仕組みだ。

画像では、首輪が札の中に四つ並んでいる。マークを繰り返して数を表す仕組みは、トランプと似ている。なのに、首輪を数えるとなると、急に別のゲームに見えてくる。
四組のマークと数札、人物札。この共通の作りを知っておけ。古いカードの画像を見たとき、「これは何のマークだ」と探す楽しみが増える。
占いの道具になるまでには、時間があった
タロットが遊びの道具として現れたのは十五世紀。占いの説明が広がるのは十八世紀末。間には数百年ある。V&Aの解説が、この後世の占い利用と神秘思想の広がりを紹介している。
その間に、「実は古代エジプトの知恵を伝えるカードだ」という説明も出てきた。一七八一年、クール・ド・ジェブランがエジプト起源の説を唱えている。モルガンの解説は、この説を史実の裏づけとしては扱っていない。
古代の秘密を託した絵札。聞けば、一枚ずつから謎を読み取りたくなる。気持ちは分かる。でも、まあ聞け。当時の人がそう語ったことと、本当に古代から伝わったことは、分けておくんだ。
一方で、後の人たちがカードに何の意味を見つけたかも、来歴の一部だ。フランス国立図書館には、エッテイヤによる一七八三年刊のカード占い関連書の書誌が残っている。札を読む方法を本にまとめて、伝えようとした人がいた。その仕事を、書物の形で確かめられる。
使う人が変わる。読み方を伝える人が現れる。絵について語る言葉が増える。最初に遊んだ人たちも、何百年後に自分の手札をめぐってこんな本が書かれるとは、思わなかっただろ。
箱の中には、描いた人の仕事がある
今いちばん知られている絵柄の一つが、一九〇九年刊のライダー・ウェイト・スミス版。アーサー・エドワード・ウェイトが構想して、パメラ・コールマン・スミスが絵を描いた。モルガンの展覧会解説が、この版が後の芸術家に与えた影響を紹介している。
名前を知ると、絵札の見方に、描き手への関心が加わる。どんな線で服を描いたのか。背景に何を置いたのか。人物同士をどれくらい離して立たせたのか。一枚ずつ選んだ人の仕事を、俺たちは今も箱から出して眺めている。
次にタロットを見るとき、絵の細部も見てみろ。遊びの手札にした人。その札に別の意味を読んだ人。描き直して新しい一組を作った人。来歴をたどると、使う人と描く人の姿が見えてくる。
次回は、カードの机から夜空へ。「人はなぜ、星を見上げてきたのか」をたどる。案内は冴香だ。
